戦う決意を固めディフェクティオへと向き直るソフィー。 「それで良いわ、二人きりで遊びましょう」 その顔に笑みをたたえたまま言うなり、ディフェクティオはソフィーに向かって 一直線に突進して来た。その勢いにのせて拳が放たれるが、ソフィーはすぐに高度を上げその場を離れ、空を切った拳が豪音を響かせる。 まずはペースの取り合い、とドーム状の壁に沿って飛び距離をとる。 闘技場は光の壁に覆われてはいたが飛び回るには十分な広さと高さがあった。 その頂上付近でソフィーは静止。ディフェクティオもすぐに距離を詰めてくるような要すはない。 ソフィーには好都合な距離だった。 ソフィーの拳が青白い光に包まれる。パンチをする様な動作で拳を突き出し放たれる この技は、エネルギーを収束させるのが容易で瞬時に放つことができ、 威力は低いが牽制にはもってこいの技だ。 ソフィーの右拳にエネルギーが収束されていくのを確認すると距離を詰めるディフェクティオ。 「はぁっ!」 気合いのこもった発生と共に拳を突き出す。ソフィーの拳から青白い光球が 尾を引きながらディフェクティオに向けて放たれる・・・が、 直後放たれたはずの光は霧散し消えた。 「な・・・!?」 わけもわからず右拳を突き出したまま固まるソフィー。 「光線技は使えないのよ、ここでは」 距離を詰め背後に回り込んだディフェクティオが耳元で囁く。 「くぅ・・・!」 突き出した拳を引き戻しそのまま背後のディフェクティオに肘を見舞うが、 見透かされていたかの様に受け止められる。 「まずは今回の遊びのルールを説明しなきゃね。でも、その前に・・・」 ーガチャリー  音がしたかと思うとソフィーの視界が逆さまになった。戸惑う間もなく ソフィーの身体は地面に強かに叩き付けられた。 「がっ・・・あぁああっ・・・!?」 何が起こったのかはわからなかったがとにかく身体を襲った痛みにもがいていた。 涙で潤んだ瞳でディフェクティオの姿を確認する。こちらにゆっくり降りて来ているようだ。 自分が倒れているのは・・・地面。先ほど出現した石畳の上だ。 落ちたんだ。そんなことを理解するのにすら時間がかかった。 当然だ。ソフィー達光の国の戦士たちにとって空を飛ぶという行為は 人間が歩いたり走ったりするのと同じくらい当たり前にできること。 エネルギーが尽きて高度を維持できなくなることはあっても突然落下することなどあり得ない。 困惑しながらも身体を起こすソフィー。ここでようやく右手首に 見覚えのない黒いブレスレットが付けられていることに気づく。 「これ・・・は・・・?」 落下などすることなく、当然の様に自分が膝をついている地面に 降り立つディフェクティオを睨みつけソフィーは気づく。飛べるはずの自分が落下した理由。 重力やフィールドの影響ではないとするなら。 「このブレスレットが私の飛行能力を・・・」 「半分正解ね」 ソフィーが呟くのを遮る様にディフェクティオが続ける。 「そのブレスレットの説明は後。まずは・・・」 両手を広げ掌を真横にかざす。バチバチと赤い稲妻が両腕を取り巻く。 「光線技!?」 ソフィーはとっさに身構えるがディフェクティオはそのまま真横に向けて 強大なエネルギーを解き放った。すると先ほどのソフィーの光線と同様に 霧散し消えた、が、放たれたエネルギー量がより強大だったためか 霧散したエネルギーの行く先がはっきりと視認できた。 放出されたエネルギーは正方形の石畳の四隅にそびえる4つの柱のてっぺんに付いている クリスタルのようなものに吸い込まれていたのだ。 「この通り光線技が使えないのは私も一緒よ」 そしてディフェクティオが放った光線を吸収し終えるのと同時・・・ バチィッ。炸裂音とともに柱と柱の間にエネルギーのロープが張り巡らされた。 「さぁ、これで準備が整ったわ」 周囲にエネルギーのロープが張られ正方形の石畳も合わさり さながら格闘技のリングと言ったところだった。 「それじゃあ説明を始めるわ」 ディフェクティオが今度はもったいぶらずスラスラと話す。 「まずあの柱。あれはあなた自身も体験して今見たからわかると思うけど、 放出されたエネルギーを吸収しそれを4つの柱を循環させることで 常に強力なエネルギーのロープを形成する。これに触れると・・」 ディフェクティオの手にはどこから取り出したのか人形が握られていた。 「・・・っ!」 無言で眉をひそめるソフィー。ディフェクティオが持っている人形はソフィーそっくりの形をしていたのだ。 それをエネルギーロープのほうに放り投げる。バシュッ! ソフィー人形はロープに接触すると同時に音を立てて炭になった。 「こんな風になっちゃうから気をつけてね」 「それで、このブレスレットは?私の飛行能力を奪って逃げられない様にしたんじゃないの?」 悪趣味な演出に気分が悪くなったのか、ソフィーは話の先を急がせる様に問いかける。 「ふふ、逃がさない様にというならこの闘技場を覆った光の壁だけで十分。あなた自身わかってるんでしょう?」 悔しいが事実だった。あれはソフィー一人の力でどうこうできるものではない。 「あなたはそのブレスレットに飛行能力だけを奪われたと思っているみたいだけど 実際にはもっと根本的なもの・・・。さっきから何かしら身体に違和感を感じてるんじゃない?」 そう、ディフェクティオの言う通り先ほどから何とも言えない違和感を身体に感じている。 「根本的・・・違和感・・・」 はっとするソフィーの顔がみるみる青ざめていく。 「気づいたみたいね。そのブレスレットはあなたの体内のエネルギーに作用して エネルギーを操れないようにする装置。どういう意味かはあなたが一番理解しているでしょう」 「あ・・・あ・・・」 うろたえ呆然とし見開いた目で膝立ちになったまま自分の両手を見つめるソフィー。 非力なソフィーがこれまで強大な力を持った数々の怪獣や宇宙人と渡り合えてこれたのは ソフィーのエネルギーを運用する技術によるものと言っても過言ではない。 ソフィー達光の国の民にとってエネルギーは生命維持に欠かせないものであり、 操作し、ときに放出することで飛行、光線技といった様々な能力に使われる。 また、ソフィーのような非力な戦士は自らの力を武器に戦う屈強な戦士たちよりも エネルギー保有量が多くその運用能力にも優れているものが多い。 それはパンチはキック、走ったり跳んだりなど筋力に依存する行動を取る際 エネルギーを効率良く使い飛躍的に運動能力を高め非力さを補うためだ。 ソフィーは同族の戦士の中でも特にその傾向が強い。 その彼女が体内のエネルギーを操る能力を失うということは・・・。 闘技場で行われるのは超人同士の戦いなどではなかった。 対峙するのは、圧倒的力を持った邪悪な魔人と、ただの非力な少女だった。