《とったる!部長》上

 

「日比野さん、今頃スポコンスタイルなんて時代に合わないんですよ?」柊が馬鹿にするように言った。

女子ボクシング部員が増える事によって出来た「日比野派」と「柊派」。代表が戦って、

勝った方が部長になれる。たかが部活動だが、どちらが勝つかによってこの部活動の空気は大きく変わる。

日比野は熱血感のある、髪もショートボブに切った髪、スポーツタイプ。

柊は腰まで黒髪を伸ばして結ぶ事さえしない。

部長が決まってから部の服装は決まるのだが、とりあえず今は体操服にブルマだ。

部員達が息を殺して見守っている。そしてその沈黙を破るかのようにゴングが鳴った。1R開始だ。

「行くぞッ!」日比野は突進した。そしてストレートぎみに右でパンチを放つ。

ズバァァァン!と柊がそれをガードする。

(馬鹿力のスポコン女め)柊は慎重に攻めるつもりだ。間髪入れずに日比野の左のパンチ。

柊は体ごとパンチを避けた。そしてパンチを出したばかりで無防備な日比野にジャブを数発打つ。

顔面ジャブに、一瞬、砂をかけられたように日比野の目は閉じられる。

(ここで!)

バァン!と皮膚にグローブが張る音がした。フックが日比野の左頬にぶち当たったからだ。

「ぐぅっ!」日比野は後退した。

「イノシシの突進、フフ」柊は嘲るように笑う。そして今度は柊が日比野目がけて突っ込む。

「ジャブかっ!」日々野がとっさに顔付近をガードする。

どぶっ!と重い何かを日々野は感じた。ボディーブローが自分の腹に突き刺さっている。

痛みより苦しさが込み上げて来る。「はぁぅ・・・」と搾り出される苦悶の声。

この一発は大きかったらしい。日々野は目の焦点が合っておらず、苦しさに支配されたままでいる。

「みぞおちってそんなに効くんだ、もう一発打ってみようかな」柊は一歩攻め込んだ。

(流れをつかませちゃダメだ!こうなればガードごと吹き飛ばしてやる!)日々野は思い切りフックを打った。

そしてフックが届いた!と日々野本人は思えた。ガードの隙をうまく突いてのフックが!

ボグゥ!

届かなかった。先ほどの重い感触が再度こみあげて来た。

 

「カウンターでボディーブロー、冷静にならなきゃ」柊はニヤリと笑った。

ゴボッ!と液体を吐き出すような音がして、日々野の口から唾液とマウスピースが吐き出された。

びちゃ・・・ 

マウスピースは歯型の面を上にして落ちた。窪みにタップリと唾液が溜まっている。

「汚いわね・・・しかもなんでスポ魂連中のマウスピースはマンガみたいに大きいのかしら?」

柊は本当に汚い物を見る目で、日々野の吐き出したマウスピースを見た。

「ほら、咥えたら?待ってあげるから」

「ううっ・・・」柊の言葉に、日々野は自分のマウスピースを拾う。

ぬちゃ

マウスピースを持ち上げると唾液がドロリと垂れる。それを拭く事無く、ぐちゃっと日々野は

マウスピースを口に入れた。唾液が口からはみ出て顎を伝い、糸を引いて垂れている。

「なんか臭いわね、日々野さん、あんたこんなに臭い唾液を毎日毎日口の中で出してるわけ?」

柊の言葉に、日々野はただ口周りの唾液をジュルッと啜るしか無かった。

「あ、クリンチはやめてよ?なんか体臭が移るのイヤだから」

そう言って、まだファイティングスタイルをとれない日々野の胸あたりを中心に鼻を鳴らす。

「もう汗臭い・・・ワキガとまでは言わないけど、日々野さんの脇ってこんなに刺激臭がしたんだ、体育の

 時間にみんなに教えてあげなきゃ。」

そう言うとフィニッシュに行きたかったのか、柊はアッパーを打った。

ぐしゃぁぁぁ!

腰の入ったアッパー。日々野のマウスピースは口から飛び出て宙を舞う。

そして「それ」はリングの上にびちゃぁぁぁ!と落ちて、びちゃ!びちゃ!と鮮魚のように跳ね回る。

「ふう、これで終わりかな?スポコンらしくアッパーでマウスピース吹き飛ばしてやったわよ」

「あ・・・」日々野は一言言うと仰向けにダウンした。

レフリー役がカウントを始めた。日々野は白目を剥いて、カウントは耳にも入っていないようだ。

「じゃ、私が部長ねー」柊がアピールすると、柊派の部員から拍手があがった。

(ジャブ、ボディー2発、アッパー、まだまだこんなもんじゃ部長の資格は得られない)

ぐじゅるっ!

目の覚めた日々野はマウスピースを口に入れた。

「残念でした!」気合で立ち上がる日々野に、柊は右の眉を上げた。

「気に入らないわね・・・アッパーをもう一発。耐えれるかしら?」

柊がそう言った時

 

カーン

 

1Rの終了のゴングが鳴った。

「チッ!じゃあね」柊は華麗に自分のコーナーへ戻って言った。

日々野はヨレヨレと戻って椅子に腰掛けた。

「日々野先輩、マウスピースを!」セコンドの後輩が右手を出す。

「ぷぁっ」唾液でベトベトのマウスピースはその右手に吐き出された。

「あの・・・臭くない?」日々野はおそるおそる聞いてみた。

「せ、先輩のは絶対臭くないです!」そう言って後輩は匂いを嗅ぐ。

「このツーンとした唾液集がいいんですよ、体液を撒き散らしながら試合ってカッコイイですし」

「本当は汚いとか思ってない?なんか悪い気がして」

「日々野先輩!勝てばいいんです!相手にも臭いマウスピースを吐き出させればいいんです!」

「ありがとう・・・」日々野はやっと気持ちが落ち着いた。

どのくらい差がついてしまったのだろう?柊は汗もかいていないが、日々野は自分の汗で

ノーブラの上半身に体操服が密着している感触がして気持ちが悪い。

ブルマの中も蒸れている。日々野は思わず下着ごとパタパタと空気を通した。

「わっ!先輩の陰毛が見えちゃった・・・」後輩はいきなりの光景にその陰毛を凝視してしまう。

しかもパタパタとしているせいで、蒸れた下半身の匂いがあたりに漂う。

マウスピースを洗っている後輩はかがんでいて、その位置にかなり近かったので嫌でもその香りを嗅ぐことになる。

(えっ?おしっこの匂い?これ汗のにおいだよね・・・でも汗の匂いにまじっておしっこの匂いが・・・)

後輩は思わず日々野の性器を意識してしまった。陰毛より下を。

そしてそこに顔を密着させている自分を創造する。

後輩はレズではないが、日々野は憧れの対象だ。そんな彼女も、自分のようにグロテスクな女性器を持っていると

考えて興奮する。いつか鏡で見た自分の性器のように。

「次で決着つけるよ・・・スポ魂で上等。あいつの鼻っ柱を折ってやる!」

日々野の言葉に後輩はハッと現実に戻った。

「あっ、はい!やっちゃって下さい!」

 

カーン 2R開始だ。