《俺の妹ボッコボコ》

 

うむ。地下ボクシングとはいえ、金をそれなりに払って入った事だけはある。

今日は弁当がおせちではないか。

明日菜よ、これでお前が勝てば今年は良い年だ。

昨日、「姫はじめ」とかいって錯乱して襲い掛かってきたお前を殴ってすまん。

 

さて、伊勢エビもうまいが、妹の試合の番じゃないか。

ん?何で既にボコボコなんだ?

一人二試合?えーと・・・これだ。おれが黒豆を食べていた間に1試合あったのか。

こういう事もある、すまん。

相手は時期チャンプと言われている奴か。なるほど、体が引き締まっている。「銀」と呼ばれているのだな。

 

              

              *

 

ゴングが鳴ると、銀はうすら笑いをうかべる。

最初の試合で明日菜は目の周りにアザ、そして鼻血の痕があり、口の端から血を流している。

気持ち程度だろうが、ヘッドギアを付けている。

銀は迷うことなく、フックをヘッドギアの上から打ち込んだ。

一発でヘッドギアは頭からすっぽ抜け、回転して場外へ落ちた。

後には、ボサッと乱れた髪形の明日菜だけが残った。何が起こったか解っていないようだ。

「??とりあえず!」

少しめまいがするが、明日菜は銀に突っ込んでいった。

銀が少し自分の位置をスライドすると、明日菜の全身が無防備になった。

「ふん!」

明日菜のボディに一撃。

明日菜はボディに力を全く入れていなかったようで、グローブが見事にめり込んだ。

「ぐぽっ」明日菜が胃から声を出す。

大きなマウスピースはさすがに飛び出ないが、唾液が先から滴っている。

それを快楽にチェンジするように、明日菜は気持ちよさそうに目を半分閉じた。

「噂通りだな!マゾ野郎!」銀は明日菜の顔面に焦点を置いて殴る。

殴る!殴る!殴る!

唾液がビチャビチャと明日菜の周りに飛び散る。

目にはアザがあったはずだが、既に腫れてよく分からない。

 

 

             *

 

兄としては早送りをしたい所だ。今日こそ、クロスカウンターでもぶち込んで相手をノすんだろう?

それにしてもこのカマボコは自家製だな、練り物と言われる位だから、ちゃんとこのように

何度も機械を通して粘性を出すものだ、うんうん。

ん?べちゃっと音がした。

何だこのカマボコは?半月の・・・

 

             *

 

明日菜は兄に向かって叫んでいる。

「お兄ちゃぁぁぁん!私のマウスピース!それ私のマウスピース!とってぇぇぇ!」

口から血と唾液をくもの巣が垂れるようにキラキラと吐き出している明日菜。

兄らしき人物は、「あ、そうか」という顔をして、箸でマウスピースをとってリングサイドへ向かった。

 

             *

 

妹よ、これは演出か?まあいい、その空けた口に箸でマウスピースを突っ込んでやろう。

おや、このマウスピース、そろそろ寿命じゃないのか?唾液でふやけて、わりとすんなり口に入った。

そうかそうか、お前の魂胆は判った、これだな、カマボコだな。

しょうがない、これも突っ込んでおこう。

 

              *

 

明日菜は立ち上がり、銀へ向き直った。

何かをくちゃくちゃ食べている。

だが銀の一発で、すぐにカマボコは明日菜の口から宙へ舞った。

血に染まり、噛み砕かれた唾液まみれのカマボコがリングへ落ちる。

銀は、自分の力のあまりマウスピースを粉砕してしまったのかと驚いた。

踏み潰してやっとカマボコだと判る。

明日菜は、なまじっか食べ物を口にしたせいで、唾液がベトベトと胸元をぬらす位に吐き出している。

「試合にならないな」銀は明日菜を見てそう思った。

右目が腫れて何も見えていないらしい、見えていてもかろうじて。という感じだろう。

鼻血を出し、口から大量の唾液を出し、両足もガクガクと震えている。

「苦しんでダウンしな!」銀がありったけの力を込めてボディを打った。

「んぐぅぅぅ!」

マウスピース?巨大な白いぐねぐねした物体が明日菜の胃液といっしょに出てきた。

それは不完全な形をしているが、一見、マウスピースの質感だ。

 

びちゃぁぁぁぁ!唾液と胃液を散らして、白いグネグネした物体がマットに落ちる。

 

               *

 

妹よ、試合前の餅はよせと・・・言っては無いがやめろよ

 

 

                *

 

「餅か・・・めでたい奴だ」銀はため息をついた。

明日菜はまるでSEXを待つ痴女のように舌を突き出して、ハァハァとうすら笑いを浮かべている。

「変態にはこれだっ!」銀がアッパーを打つ。

ぐしゃぁぁぁぁぁっ!

大きなマウスピースが天井のライト付近まで飛んだ。

その瞬間、明日菜はイッた。

湯にのぼせたような顔をして、ふさがっていない左目は白目になりそうな位に黒目が上に上がっている。

ものを見る眼ではなく、快楽を表現するための目になっていた。

ぼとーん(びちゃっ!)

マウスピースが落ちてきて跳ねる。

「果て・・・た」一言言うと、明日菜はあおむけにダウンした。

 

               *

「ん?びちゃっ?おい、明日菜のマウスピースがまた飛び込んできた。

 えらい血まみれだが・・・もうカマボコは・・・あ・・・ああ。負けたのね」