《島。見渡す丘で》

ひなたは丘の上に来ていた。

「そうか、カンノちゃん泳いできたんか、あの年で出来る事じゃないのぅ」丘の上で仁が言う。

「で、起きてあったまってさ、落ち着いたらお母さんと話し合うんだって。じゃけ、ウチも決着つけれることは

 きちんとしとかんと思って」

「!」こころはひなたを見た。

(ひなちゃん・・・・・・)

ひなたは真剣な顔でこころを見ている。

(こころ、自分で決着を着けるけぇ)言葉が顔でわかる。ひなたはキチンと仁と恋愛について決着を

付けるつもりだ。

「絶対に一つずつ解決して行けばウチら「四人組」に出来んことはない」ひなたが強く言う。

「あ、ちょっと喉かわいたけ、チャリ(自転車)で何か三人分買ってくるわ」

「おう」仁が応える。

こころは自転車にまたがる。そして少しひなたの方を見た。少し寂しそうな表情をひなたに投げかけてしまった。

だがひなたは、こころに笑顔を見せた。(ウチ、大丈夫じゃけ)そう、ひなたの目が言っている。

こころは坂道を降りていった。

「・・・・・・仁、告白してどのくらい経つじゃろね」

「いきなりその話か。ああ・・・・・・どのくらいじゃろうの」

「ウチが吹っ切ってなかったけ、こころを傷つけてしもうたんよね」

「誰のせいとも言えんかもしれん、でも、そのへんはキッチリしとかんといけんのんかのぅ。何か俺らって

面倒な生き物に生まれたもんよの」そう言って仁はフッと笑う。

「曖昧でいられたらウチもなんぼ楽な事か」ひなたは背伸びをして仁の横に座る。

「フフッ」仁が笑う。

「何わらっちょるん?」ひなたが言うと、「初めてお前と会った時の事っちゃ」と言い、仁はまた笑う。

「いや、不良とか気にせんかったけぇ、ホント、全然気にしてなかった」

「だからって、皆が道空けて俺がズンズン歩いとるのに、面と向かってぶつかって来た奴はお前だけじゃ」

「懐かしいね、しばらく間空けて二度目に会った時は、仁がフツーになっとったけ、驚いた」

「俺も色々あったけ、あのまま不良のままズルズル生きていくわけにはいかんかった」

「それで二人組みが始まった・・・四人組みの元祖じゃね」ひなたが鼻をすすった。

「寒いか?」仁が自分のコートを脱ごうとして手を止めた。ひなたの潤んだ目を見てしまった。

「それから、ウチは仁に・・・・・・」ひなたは潤んだ目から涙がこぼす。それでもそれを拭おうとしない。

「辛いか?いきなり自分でケリつけようとすると悲しいだけぞ?」仁は出来るだけ優しく言った。

「ウチは大丈夫。ただ、たったほんの少し前の事が愛おしくて、懐かしくて、胸が熱くなるんよ」

「懐かしいな・・・・・・懐かしい。俺はそれから今に至るまで、正しい応えを出してきたかっちゅう自信がない」

「仁は今が一番ええ、じゃけ、正しいか間違ってるかじゃないんよ」

「そうか、お前にそう言ってもらえると悩まんですみそうじゃ」仁は空を見上げた。

「仁にフラれて、次の日からウチは出来るだけ明るく生きてきた」

「ああ、お前は明るかったの。俺がフッた事すら忘れそうじゃった」

「じゃろ?ウチの演技も凄いじゃろ」ひなたは仁に笑顔を向ける。

「ああ、凄い、脱帽モノじゃ」仁もひなたに笑いかける。

「じゃけど、本当はね・・・・・・本当は・・・・・・本当はね」

「何?言ったらええ」仁がそう言うとひなたの笑顔から、うるんだ目からどっと涙が溢れてきた。

「ウチを忘れんといて、ずっと忘れんといてって、心の中でずっと祈っとった、不安じゃった」

「そうじゃったんか」

「ずっと・・・・・・ずっとずっと、今まで毎日、ウチを忘れんといてって・・・・・・忘れんといてって・・・・・・」

次々に溢れる涙を拭わず、肩を震わせてひなたは泣いている。

「ひなた・・・・・・」仁はひなたを抱き寄せた。

ひなたは仁の胸の中で大声で泣き出した。

「すまんの、忘れはせんけ、忘れはせん」仁はひなたをさらに強く抱きしめる。

恋心ではないが、仁はひなたに強く愛情を感じた。壊れそうな物を必死で守るように。

ひなたはそれに応えるように、仁の腕を握り締めていた。

しばらくすると、ひなたは落ち着いて鼻声で言った。

「仁に抱きしめてもらった、なんか初めてでドキドキするわ」

「抱きしめたが、別にヘンな事はしとらんぞ」

「うん、ええんよこれで・・・・・・ウチはこれで幸せじゃったんよ・・・・・・」

ひなたはゆっくりと仁の手を振り払う。

「ええ思い出をありがとう」ひなたは涙を拭きながら立ち上がった。

「どうした?どっか行くんか?」

「そのへん散歩するわ、泣き顔じゃ、こころが不安に思うじゃろ。そんでカンノちゃんの様子もみるわ」

ひなたは振り向かずに歩いていった。