《島。見渡す丘で》
「ひなた、サボリが多いのぅ」
仁が自転車を押しながらひなたに言った。
「どうせ進路は決まっちょる、親の農業を継ぐっちゃ」
ひなたは何度もこの質問を皆に聞かれるのでうんざりしていた。
「俺は島を出て大学行くぞ、大学」と仁。
「私はまだ決まっちょらん」こころは沈んだ声で言った。
「それぞれ、時間の流れ方が違う、決まっとるけぇいうて、偉いっちゅうもんじゃないんよ」
ひなたは、こころを励ますように言った。
最も、これは自分の祖母の「イネ婆ァ」が言っていた事で、ただの受け売りだ。
「何にしても・・・10年後、この丘でこの三人で会おうの!」仁は力強く言った。
「四人じゃったらええのに」ひなたが即答した。
「あかりか?黒金あかり」仁も久しぶりに口にする名前だ。
「そ、小さくてお互いよう解らんかったっちゅっても、親友じゃったけ」
ひなたはそう言って、空の遥か遠くを見つめる。
*
「父さん、今年も神輿担いで、縁起も担いで来るけぇの」
夕食の席で、ひなたの父親、浩太(こうた)が言った。
「今年もですか、風邪引かんようにして下さいよ」母親の七海(ななみ)が言う。
「神さん担ぐのはええ事じゃ、来年もええ事ある」イネ婆ァはほがらかに笑いながら、箸を運ぶ。
「桃香(ももか)、かえって来んかね」ひなたが妹を心配する。
浩太は日本酒をチビリと飲むと、フーを酒臭い息を吐き出して
「なんかこの時間に船が出るっちゅうんで、誰が乗って帰ってくるか気になるんじゃろ。
あいつは船が、好きじゃのぅヘンな中学生じゃ」と言った。
「夜来る人に、ええ人はあまりおらん気がするがの」イネ婆ァはそう言って時計を見た。
家族の心配をよそに、すぐに桃香は帰ってきた。
「あっ!もう食べちょる!」桃香は説教を受ける立場なのに、文句を言っている。
すぐに座って箸を取ると、七海に「いただきますは?」と頭をコンと叩かれた。
「いただきまぁーす」
「誰か珍しい人でもおったんか?」ひなたが聞くと
「黒金あかりって言うとった、サングラスかけたごっつい兄ちゃん二人連れとった」と、白米をパクつき
出した。
「あかり!あかりが帰ってきたん!?」ひなたは桃香に食いつくが、桃香には記憶の無い人間だ。
「よう知らんけど、名前教えてくれたっきり口も聞いてくれん、なんか怖かった。あ、から揚げじゃ」
桃香は大好きな鳥のから揚げを受け皿に3つほど入れた。
「ひなたには悪いが、かかわりとうないのぅ」浩太がほろ酔い加減で言った。
「え?なんで?あれからのあかりについてしっとるん?」ひなたはすぐに食いついた。
「ああ、あれから学校もやめたらしいし、悪い事ばっかりしちょるらしいけぇの」
「ふーん・・・」ひなたは箸を止めた。
明日は、あかり探しだ。とひなたは決めた。