《島。見渡す丘で》

 

ひなたは自分の部屋でパソコンを操作していた。特に用事は無いが何かをしていないと気持ちが落ち着かない。

自分のブログを見る。この島で撮れたスナップ写真を載せてコメントを少し書いているだけだ。

だが更新度が多いせいなのかアクセス数はそれなりに高い。

その中でも畑仕事をしているイネ婆ァの姿はかなりの反響をよんだ。都会の人には珍しく見えるのだろう。

そしてあの丘の写真。

特に力を入れて、いかに良い場所かという事を書いた覚えがある。

そうして時間を潰していると、カンノを迎えに波止場まで行く時間になった。

 

                              *

「天川ひなたVS黒金あかり。黒金が勝てばこの場所は買収され、レジャーランドが建ちます

              天川が勝てば手を付けずに終わります。

                       1月7日、午後3時より、市民体育館で!

                                           勝つのはどっちだ!?」

 

この文章で、丘の写真、ひなたとあかりの写真が使われたポスターがあらゆる場所に貼られている。

勿論、このポスターを発注したのは、あかりだ。

そしてその下にはリゾート計画のパンフレットが吊り下げられている。

 

「黒金、これで負けてリゾート計画無くなったら命無いぞ」サングラスの男がポスターを貼りながら言う。

「大丈夫っちゃ、お遊びよ、お遊び」

あかりはそう答えた。だが彼女がひなたと約束した事。遠い昔にこの島を出るときにした約束。

それだけが心に引っかかっていた。

 

                            *

「どうも!渡部カンノです!」

ひなたは目を疑った。まるで小学生だ。

「えと、10歳です」

小学生だった。

「あ、天川ひなたです」

カンノは笑顔で右手を差し出してきた。

ひなたも戸惑いながら右手を出して握手をする。

「じゃあ、私の家へ来る?」

「行きましょう!」カンノは右手を挙手して答える。

(大丈夫だろうか・・・不安だなぁ・・・)ひなたが思っていると

「あ、ひなたさん椅子に座って何してたんですか?それと泣きましたね、悲しいことでもあったんですか?」

「え?」

「ズボンの形のクセで、椅子に座ってたのは解ります、それと頬の質感が一部違います、それ泣いた後です」

「あ、うん・・・泣いて、その後インターネットしてた。よく解ったね」

「はい!」カンノの無邪気な笑顔。

「で、ボクシングの特訓なんだけど」

「あ、それは本をしっかり読んで、体力を付けておいて下さい♪」

「え?教えてくれるんじゃないの?」

「私は、どーさつりょく。っていうのが生まれつき強いらしくって、セコンドで選手に指示するのがお仕事なんです」

「お仕事?」

「はい、お金も、お母さんが受け取ってるみたいです。でも遊ぶ時間が全然無かったので、思い切ってここに逃げて来ちゃいました」

カンノは終始笑顔だ。

子供の知ったかぶりなイタズラかもしれないと思っていたひなたは少し安心した。カンノはボクシングに関わっているといえば関わっている。

だが未だに信じられない部分はある。証拠が無い。

「ひなたさん♪疑ってるでしょー」そう言いながらカンノは一冊の本を出した。

ひなたが本を開くとまず著者紹介に、渡部カノンという名前に、今目の前にいる少女の顔写真が載っている。

対談相手はどれもテレビで見たことのあるボクサーばかりだ。

少し先を読んでみると、カンノのセコンドとしての助言は素晴らしい。等という事が書いてある。

「あ、見せびらかしたんじゃないですよぉ、いつも信じてもらえないからそれで・・・」カンノがあたふたし始めた

「信じる!よろしく!」ひなたは笑顔でそう言うと、カンノは安心したようだ。

「こちらこそよろしくです!」ツインテールの女の子は嬉しそうにそう言った。

 

「あ、方言は使ってもらって結構ですよ、勉強して来ました」と、少女は付け加えて言った。